証券会社に向かって駆けているあなたの視線に入るのは、あっちの角からも、こっちのビルからも、向こうの交差点からも、必死の形相で駆けている札束握りしめた無数の人たちである。
みんな全速力で証券会社めがけて走っているのだ。
みんながスダレ髪を乱して駆けているのである。
「こりゃいかん」。
あなたは走るスピードを速める。
すると、みんなもスピードを上げる。
あなたがもっとスピードを速めると、ほかの人たちもスピードを上げる。いっせいに店になだれ込むと、カウンターの販売員に向かって我先に「ウイルス・コンピュータの株をくれっ」。
みんなが一挙にウィルス・コンピュータの株を欲しがったのであっという間に値段が釣り上がってしまう。
結果としてあなたはずいぶん高い値段で株を手に入れてしまうことになる。
発表した。
でも以前と比べて株価はすでにずいぶんと高くなっている。
新製品の発表がなされても株価はピクリとも動かない。
株価はすでに新製品発売の効果を織り込んでいるのだ。
あなたの利益はない。
みんなも高い株価で買っているので利益は出ていない。
どの投資家もほかの投資家よりも高いリターンをあげることはできなかった。
誰も誰かを出し抜けなかった。
つまんない世界だ。
強い効率性を持つ場合には、どんな情報でも瞬時にみんなに知れ渡ってしまう。
社内にしか知られていないはずのインサイダー情報だって、世の中のみんなが知っているのだ。
投資家はみんな同じ情報を、同じ時に得てしまうのである。
こうなれば、誰だって考えることは同じだから、よい情報を持つ株には瞬時に無数の投資家が殺到することになる。
その結果、株価は瞬時に上昇してしまう。
情報を得ても、株価が上昇しないうちに買うことはできないのだ。
だから、利益を得ることはできないのである。
悪い情報を持つ株は、みんなが売り抜ける前に、瞬時に価格が下がってしまうから利益を確保することはできないのだ。
市場が強い効率性を持つ場合には、どれほど時間をかけて企業分析しても、どれほど頑張って株価データの統計解析をしても、どんなに極秘の情報を手に入れても、すでにそれらは株価に反映されている。
ほかのどのような投資家よりも利益をあげることができない状態では、市場の平均値を超えるパフォーマンスをあげることは期待できない。
市場の平均値に勝てないのであれば、市場の平均である市場インデックスの商品、例えばTOPIX連動型の株式投信を購入するのが合理的だ。
どんなに優れたファンドマネージャーが運用しても市場平均に勝てない、すなわち市場インデックスに勝てないのだから、高い手数料や運用報酬を要求するアクティブ運用(市場インデックスを上回ることを目的にファンドマネージャーやアナリストが独自性を出す運用)を利用する合理性はない。
手数料の低いインデックス追随型の商品を利用するのが合理的だ。
ただし、これはあくまでも「市場は強い効率性を持つ」という前提に立っていることを忘れてはならない。
非効率であれば、あるいは効率性が弱い状況であれば、アクティブ運用にも一理見いだせる。
効率性なんて机上の空論だ。
頑張れば必ずやよい情報が得られて、市場平均を上回るリターンが得られるはずだと考えるのであれば、優秀なファンドマネージャーがアクティブに運用する成長株投信や割安株投信等が合理的な選択となる。
アクティブ運用のファンドマネージャーたちは市場が常に強い効率性を維持すると考え、それゆえに個々人の持つアクティブ運用の手法を駆使して市場平均よりも高いリターンを狙っているのである。
あなたは、どちらを信じますか?効率的市場は3つに分けられる。
弱い効率的市場では公開情報を分析して株価を予測できる。
まあまあ強い効率的市場では秘密情報で自分だけ儲けることができる。
強い効率的市場では誰も他人を出し抜けない。
効率的な市場において、その効率性が進むほど市場には勝てなくなってしまう。
効率性が優れた資産運用のキーワードなのである。
市場の効率性を見極めれば、市場に勝つことを目的としたアクティブ運用が適しているのか、市場インデックスと同じ運用を指向するパッシブ運用が適しているのかがわかるのである。
しかし……効率性なんて言われても難しすぎるのである。
言いだしっぺのF先生には申し訳ないけれど、正直言って実感はわかないのだ。
「市場は効率的だから市場には勝てない!」とは腹の底から思えないのである。
確かに「効率的市場仮説」を学んだ直後は納得するのだが、日常生活で市場に接するとそうもいかなくなってしまうのだ。
チャート分析の専門家が書いた記事なんかを株式新聞とかで目にすると、過去の市場の動きから、将来が予測できるような気がしてしまう。
証券アナリストのコメントなどを読むと、それを材料に儲かりそうな気がしてくる。
ファンドマネージャーのテレビインタビューなんかを見た直後は、そのファンドマネージャーなら絶対に市場に勝つような気がしてしまう。
アクティブ運用のほうがよさそうではないか。
パッシブなんてダメなのではないか。
果たして本当のところはどうなのだろうか。
パッシブ運用の代表格であるインデックス運用を取り上げてみよう。
インデックスといえば、TOPIXや日経225などを指す。
スタイルインデックスという新派も台頭してきているが、ここでは守旧派のTOPIXと日経225に花を持たせることにしよう。
東京証券取引所の1部上場銘柄数は約1400である。
その中から代表的な銘柄を225種類選び出してきたものが日経225だ。
300選び出すと日経300だし、500選ぶと日経500だ。
TOPIXは東証1部の上場銘柄全部の平均値である。
日経のように一部を選ぶなんてことはせずに「全部」入れてしまったのである。
ラーメンのトッピングに角肉、めんたい、タマゴなどを選択させるものがあるが、TOPIXは「全部入り」を選択しているのだ。
225銘柄の選抜部隊である日経225も全部入りのTOPIXもどちらも東証1部、とりもなおさず日本の株式市場の平均値を表していると考えることができる。
ということは、日経225やTOPIXといったインデックスと同じ動きをするインデックス運用とは、市場の平均値どおりに運用することなのだ。
市場で取引される株式の価格は参加者の需給によって決定される。
市場の参加者と言えば、プロのファンドマネージャーなどが属する、いわゆる機関投資家が思い浮かぶ。
参加者はそれだけではない。
そこらへんにいるオッサン、オバハンすなわち個人投資家も立派な参加者である。
会社きっての株好きのT部長だって、ネットで株取引を始めたばかりの秘書課のHさんだって、ギャンブル好きのN君だって参加者なのだ。
こんな素人さんがいっぱい参加しているのだから平均値に勝つぐらいは簡単なこと……のはずである。
ところがそうではないのだ。
素人さんが山盛り、てんこ盛りの市場を打ち負かすのは、プロのファンドマネージャーにとっても至難の業なのである。
なぜだろう。
理由は2つしか考えられない。
オッサン、オバハンたちは素人に見えるが、実は百戦錬磨の玄人はだしのやり手投資家である、という可能性が一つ。
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